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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)3377号 判決 1968年11月25日

原告 大伊豆観光株式会社

被告 墨東睦共和会

主文

被告は、原告に対し、金二、一三九、五六七円およびこれに対する昭和四二年五月二三日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一、申立

一、原告

主文同旨の判決および仮執行の宣言を求める。

二、被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二、主張

一、請求原因

(一)、原告は、業として観光事業、旅館営業をなす商事会社である。

(二)、被告は、東京都足立区、葛飾区、江戸川区、墨田区、江東区方面の住民を主体とし、東京都内全般の会員をもつて組織し、主として会員の慰安旅行を目的とする権利能力なき社団であつて、その企画部員鈴木為治、同金井幸一、同井上康、同高橋盛雄がこれを代表するものである。そして被告会の意思決定および業務の執行は、右企画部員がする。

(三)、原告の神奈川県足柄郡湯ケ原町所在の湯ケ原店「大伊豆ホテル」の支配人である訴外竹市幸弘は、昭和四一年七月中旬頃、被告の企画部員である鈴木為治と、同年夏および秋の間に、被告所属の会員を、一人一泊二食付金一、三七〇円として、宿泊させることを約した。

(四)、被告の会員は、同年七月三一日から八月二九日に至るまでの間に、大人二、三三八人、子供一二四人が、「大伊豆ホテル」に宿泊し、その宿泊料金は、総額金四、一三九、五六七円になつた。

(五)、原告は、右料金のうち金二、〇〇〇、〇〇〇円を既に受領している。

仮に第(三)項記載の事実が認められないとしても、

(六)、I、原告の「大伊豆ホテル」の支配人である訴外竹市幸弘は、昭和四一年七月中旬頃、訴外株式会社越路会(以下、訴外会社という。)と、同年夏および秋の間に、被告所属の会員を、一人一泊二食付金一、三七〇円として、宿泊させることを約した。

II、訴外会社は、被告の権限ある代理人として、被告のため、右契約をしたものである。

よつて、原告は、被告に対し、宿泊料金残金二、一三九、五六七円およびこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四二年五月二三日から支払済みに至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二、請求原因に対する答弁

(一)、第(一)、(二)項記載の事実は認める。

(二)、第(三)項記載の事実は否認する。

(三)、第(四)項記載の事実は認める。但し、料金の総額は知らない。

(四)、第(五)項記載の事実を認める。

(五)、第(六)I項記載の事実は認める。同項II記載の事実は否認する。被告の業務は会員の慰安旅行の施行であり、その実施は、被告の共賛会を構成する適当な旅行あつ旋業者が行うものであり、本件では、被告はこれを訴外会社に請負わせ、同会社が、原告と本件契約をしたのであるから、契約の当事者は訴外会社である。

三、抗弁

被告は昭和四一年一〇月中旬訴外会社に対し、原告が自認する金二、〇〇〇、〇〇〇円のみならず、本件宿泊料金をすべて支払つている。

四、抗弁に対する答弁

知らない。

第三、証拠<省略>

理由

一、原告が、業として観光事業、旅館営業をなす商事会社であり、被告が原告主張のような会員をもつて組織し、主として会員の慰安旅行を目的とする権利能力なき社団で原告主張の者らが被告会の意思決定および業務の執行をなし、かつこれを代表するものであることについては、当事者間に争いがない。

二、原告の「大伊豆ホテル」支配人竹市幸弘が昭和四一年七月訴外会社と、同年夏および秋の間に被告所属会員を一人一泊二食付金一、三七〇円で宿泊させる旨の契約を締結したことは当事者間に争いなく、この事実と証人鈴木為治、同関根崇男の証言および被告代表者鈴木為治および同金井幸一の各供述を総合すれば、訴外会社は旅行あつ旋業法に基づく旅行あつ旋業者であり、被告から、その昭和四一年度の旅行計画の実施を請負い、その旅行あつ旋業務の執行の一環として、被告のため、訴外会社の従業員である関根崇男が、昭和四一年七月三一日ごろ、原告の神奈川県足柄郡湯ケ原町所在の湯ケ原店「大伊豆ホテル」の支配人である訴外竹市幸弘と、被告所属の会員を一人一泊二食付金一、三七〇円として宿泊させることを約し、かつ、原告から、これにつき対価を得ている事実を認めることができる。証人斉藤匡司の証言のうち右認定に反する部分は信用できず他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

被告は、本件契約の当事者は訴外会社であり、被告は本人としての責任を負わない旨主張するが、旅行あつ旋業者がかかる契約を締結する場合、一般には、その業者はサービスの提供を受ける者の代理人として、契約を締結するのであり、その効果は、本人であるサービスの提供を受ける者に及ぶと解され、本件において、訴外会社と被告との間に請負契約がある事実は、被告が訴外会社に対し代理権を授与したことになりこそすれ、相手方である原告に対する関係では訴外会社が被告の代理人であることに何らの消長をももたらさず、一般の場合と異なり訴外会社が契約の当事者となるべき特殊の事情は認められない。従つて、訴外会社は、被告の権限ある代理人として、被告のため、本件契約を締結したものであるから、その効果は本人である被告に及ぶ。

三、被告の会員が、同年七月三一日から八月二九日に至るまでの間に、大人二、三三八人、子供一二四人が、原告の「大伊豆ホテル」に宿泊した事実は当事者に争いがない。証人竹市幸弘および同湯原春雄の各証言とこれによつて真正に成立したと認められる甲第三号証の一ないし一三および甲第四号証の一ないし三によれば、右宿泊料金の総額が金四、一三九、五六七円であることが認められる。

四、原告が右宿泊料金のうち金二、〇〇〇、〇〇〇円の支払を受けたことは、当事者間に争いない。

被告は、訴外会社に対し、この外に本件宿泊料金をすべて支払つていると主張するが、訴外会社が原告に代つて右弁済を受領する権限を有することについては何らの主張立証もしないから、かりに訴外会社に支払つたとしても、有効な弁済とはならない。

従つて、結局、被告は、原告に対し、宿泊料金残金二、一三九、五六七円およびこれに対する本訴状送達の翌日であることの明らかな昭和四二年五月二三日から支払済みに至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があることになり、原告の本訴請求は正当である。

五、よつて、原告の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩村弘雄 原健三郎 江田五月)

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